生誕100周年記念「小林邦二作品展 ひたむきに画道へ~ 朴直な野性 ~」 内覧会レポート

《二重像》 1942年 油彩、キャンバス 第2回創元賞受賞作

2018年6月25日(月)から7月1日(日)の期間、生誕100周年記念「小林邦二作品展 ひたむきに画道へ~ 朴直な野性 ~」が池袋東京芸術劇場ギャラリー2にて開催されます。開催に先立ちココシル編集部も内覧会に参加させて頂きました。その様子をお伝えします。
 
本展の実行委員長を務めるのは邦二氏の長男の小林一英氏です。
 
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氏が邦二氏の生誕100年を記念し、より多くの方に小林邦二という画家の存在を知ってほしいという想いで開催されました。
邦二氏二男の正史氏も内覧会にて司会を務められ、温かい雰囲気のなか邦二氏の作品をゆっくりと鑑賞することができました。
 
小林邦二氏は1916年、長野の現東御(とうみ)市田中にて生を受けました。
16歳で兄を頼り上京し、太平洋美術学校選科に入学して昼は絵を学び、夜は日本橋通郵便局にて勤務するという生活を送ります。
数々の画展にて賞を受けますが、そんななか1944年に召集されて中国戦線に送られます。
異国の地で心を慰めたのは自身が1941年に描いた《姫子沢》という作品でした。
 

《姫子沢》1941年 クレヨン、紙

《姫子沢》1941年 クレヨン、紙


 
故郷の風景を描いたこの作品を、邦二氏はボール紙にはさんで行軍したといいます。
辛い行軍の合間にこのスケッチを見て故郷を思い出していたのでしょうか。
本展覧会でも実際に目にすることができました。
 
邦二氏は配属先の部隊にて生涯の友となる八木義徳氏と出会います。
八木氏はこの応召中に『劉広福(リュウカンフー)』とういう作品により第19回芥川賞を受賞した作家ですが、絵画にも造詣が深く、本展では邦二氏の作品について八木氏が手紙に綴った言葉を作品評として展示しています。
 
なかでも八木氏が激賞したのは《二重像》です。
 
《二重像》 1942年 油彩、キャンバス 第2回創元賞受賞作

《二重像》 1942年 油彩、キャンバス 第2回創元賞受賞作


 
展示会場でもひときわ存在感を放つ作品です。
 
1946年復員した邦二氏と八木氏はその後も交流を続けます。
同年、邦二氏からポストカードとして送られたこの絵に八木氏は感動し、その後邦二氏宅を訪れ実物を目にし更に強い感銘を受けたといいます。この作品をこう評しています。
 
「きみの繪―これは驚きであつた。きみはもう、こんないゝ繪を描いてゐたのだ。これはいゝ繪だ。(この言葉をぼくはなんとも云へぬいゝ気持で書く)画材としてはもつとも難しいであらうと思はれる男の裸身を選んで美事に「繪」にしてくれた。しかもぼくの驚くのは、この裸身の男の二重像からは「肉感の美しさ」といふものよりむしろ「精神美」といつたものをいきなり感ずることなのだ。この感じは一体どこから来たものだらうか。人物のポーズが佛像のそれに近似してゐるところから来たぼくの「錯覚」なのだろうか。(殊に横向きになった男の顔など、ほとんど佛像のプロフィルだ)そして前面の男の両手の表情―この手の美しさ、ほとんど完全と言ひたいほどだ。―これがまたぼくに蓮のうてなの上に坐した佛像のそれを聯想させる。(もう一度、この手は実に美しい。完全な成功だ)これはほんとうにいゝ繪だ。凝っと見てゐてすこしも飽きない、どころか不思議にひとを引っ張りこむ力を持ってゐる。」
 
八木氏が《二重像》を評した実際の手紙です。
 
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その後も生涯続く交流の中で、八木氏はたびたび手紙にて邦二氏の作品に言及しています。
 
《婦人像》(顔)1948年 油彩、キャンバス

《婦人像》(顔)1948年 油彩、キャンバス


 
「邦兄の久しぶりの労作。(中略)緊密で、しかも情緒がある(中略)大膽なデフォルメをしてゐながら、しかも不自然なわざとらしさがなく、穏和な温感といったやうなものがタブローからほのぼのと漂ひ出てゐて、しばらく見てゐてもすこしも飽きさせません。(中略)色はずいぶん明るくなりましたね。そして誰の真似でもないあなたらしい独自の色調が整ひつゝあるやうに見受けました。画に近よってよくみると、使われてある色の種類の多いのに、ずいぶん驚ろかされました。苦心してゐながら苦心を目立たさせてゐない、細密な心づかひのある絵だと思ひます。」
 
《いこい》1959年 油彩、キャンバス

《いこい》1959年 油彩、キャンバス


 
この《いこい》という作品に対して八木氏は「タブロウ全体がなにかすこし稀薄な感じがしました。邦さん独自のエネルギーが画の中へ集注していない感じなのです。なんとなくそこにスキマを感ずるのです。」と述べていますが、邦二氏自身は大変気に入っており、代表作のひとつとして捉えていたといいます。
確かに人体を完全には描いていないことから未完成ではないかとも思わせるこの作品ですが、邦二氏は常々「余白」を大切にしていました。一英氏によると、氏が幼いころ小学校等の宿題で絵を描いていると、邦二氏は途中で手を止めるように言ったそうです。
 
すべてを描き切らずにあえて作られた余白によって観るものの想像力が掻き立てられます。八木氏の言う「スキマ」こそ邦二氏の必要とするものだったのでしょう。
 
《裸婦デッサン》1985年

《裸婦デッサン》1985年


 
「私はもちろんですが、クニさんも相当の年になったはずなのに、この裸婦像は何ともわかわかしく、エネルギッシュで、豊満なエロスを持っています。こういう場合、直接視覚に訴えるという点で小説家は画家に敵(かな)いません。このスケッチを毎日眺めて元気を回復したいと思います。」 邦二氏69歳、八木氏74歳のときの作品です。
 
《赤い裸婦》2005年 油彩、キャンバス

《赤い裸婦》2005年 油彩、キャンバス


 
《赤い裸婦》は邦二氏89歳のときに作成されたものです。力強いタッチで描かれており、その年齢を感じさせません。
 
 
本展では以上の作品をはじめとして油彩・デッサン・資料等、総点数約50点により、18歳から93歳まで、邦二氏の75年におよぶ画業が紹介されています。
 
本展のサブタイトルの「朴直な野生」という表現は、八木氏の「邦さんの絵」という文章から引用されたものです。邦二氏の取り上げる素材は決して華美なものではありませんが、作者によって注ぎ込まれた生命力によって強力な、そして独特な魅力を放ちます。邦二氏のよき理解者である八木氏はそんな魅力を「朴直な野生」という言葉で表したように思います。
 
会期は7月1日までですので、邦二氏の「朴直な野生」に触れることのできるまたとないこの機会をお見逃しなく。

展覧会概要

場所 東京芸術劇場 ギャラリー2(5F)

住所 東京都豊島区西池袋1−8−1

アクセス JR・東京メトロ・東武東上線・西武池袋線 池袋駅西口から徒歩2分

開催期間 2018年6月25日(月)~7月1日(日)

開催時間 10:00~18:00(入館は17:30まで) ※最終日7月1日は16:00まで

URL http://www.kobayashikuniji.com/index.html

 
入場無料・予約不要です。
 

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