1月23日より池袋の東京芸術劇場にて、森山大道氏の作品を集めた写真展が開催されました。
1月22日にプレス向け内覧会が開催されましたので、「森山大道写真展」の様子をレポートいたします。
森山大道氏は、1964年のデビューし、「写真とは何か」を問い、撮り続けている著名な写真家です。これまで独自の観点から写真を撮り続けてきており、森山氏が拠点としている池袋の東京芸術劇場を会場に、120の作品を展示した写真展が開催されました。
本写真展の構成は、1983年の日本写真協会年度賞を受賞した『光と影』、印刷物の拡大によって見えてくる網目のイメージをシルクスクリーン化した『網目の世界』、池袋・新宿を中心とした撮り下ろしの新作を含む写真で構成した『通過者の視点』の3つのテーマで森山氏の写真を体験できる空間となっています。
本レポートでは、これら3つのテーマ毎に森山大道氏のお話を交えながら作品をご紹介していきます。
『光と影』
1983年に日本写真協会年度賞を受賞した写真集『光と影』の作品32点が展示されています。私自身が特に興味深い作品と感じた2つの作品をご紹介します。
車のボディという金属の素材感を「光と影」により表現されており、印象深い作品です。
帽子の「生地」の質感と折り目がモノクロの濃淡で表現されている作品でした。
ここで『光と影』の作品や撮影の際の感覚について、森山大道氏からお話を伺いました。
Q1.作品を拝見させていただきましたが、物質の素材感が引き出された写真が多いと感じています。
写真家というのは「光と影」を意識して撮影するものだが、この頃は、特に「光と影」を意識していた時期。日常の物体にあたる「光」を表現した。
Q2.モノクロで表現する魅力とは?
モノクロームは、抽象化して表現することができるところが魅力。モノクロームも好きだが、カラーを撮りたいときはカラーで撮影している。カラーは擬人的な面白さがある。この頃の作品は、モノクロで撮影し、物質感を表現した。
Q3.撮影したい瞬間とは?
カメラを持って、センサーして歩くという感覚。自分自身で引っかかったものをためらいもなく撮っている。意味は後で考える。このとき、周囲(意味付けも含め、「撮影する理由」と解釈)を気にしすぎないようにしている。
Q4.撮影するときには、作品をイメージして撮影していますか?
数多く撮影するわけだが、必ずしもイメージ通りに撮れているわけではなく、いい意味イメージが裏切られることがある。撮影するときは、イメージを一新することにより新たなイメージが見えてくる。これが偶然通りかかったときに撮ることができるスナップ写真のポテンシャルだと考える。偶然と必然が交差した時に、面白い作品が撮れる。
『網目の世界』
印刷物の拡大によって見えてくる網目のイメージをシルクスクリーンにした28作品が展示されています。私自身が興味深いと感じた作品をご紹介します。
モノクロの光の濃淡により、スピード感が表現されているように感じられます。
目を開いた一瞬が切り取られて、眼光の鋭さが印象的な作品です。
『通過者の視点』
池袋を中心に東京の街で撮影した作品を展示、横位置39点、縦位置21点を展示されています。
写真に写っている男性2人のエネルギッシュな部分が撮影された瞬間に表現されているように感じました。
女性の右手で建物をつかんでいるところや、右足から靴が半分脱げている所など女性の必死さのようなものが伝わってきます。また、なんとなく、右側は写真として見えるのですが、左の女性が写っている部分は「絵」のように感じられ、写真の中に「絵」が入り込んだような作品でした。
森山氏は、これらの作品を通して、池袋は教育の場であり、かつ猥雑な雰囲気を醸し出す街だが、人間臭さや「間と間」にある様々な「部分」を撮影したかったとのことでした。屋外の写真が多い理由として、「外(屋外)」は屋内に比べ、様々な顔が見え、その一瞬をはぎ取った、とお話しされていました。
写真展に展示されている120点余りの写真を鑑賞し、森山氏のお話を伺った感想として、写真を撮影しようと思いたった森山氏の瞬間の「衝動」がこれらの作品に込められているようでした。本レポートでは、展示の様子や作品の一部をご紹介してきましたが、是非写真展に足を運んでいただき、これらの「はぎ取られた」瞬間をご覧いただきたいと思います。
写真展の概要:https://home.ikebukuro.kokosil.net/ja/archives/3230