【取材レポート】池袋で特別展「古代オリエントのたてものとまちづくり」が開催。最古の都市ウルクや古代エジプトの壮麗な壁面装飾など、多彩な模型が一堂に

文明発祥の地といわれる西アジア・エジプト地域の古代文明を専門に扱う古代オリエント博物館(池袋・サンシャインシティ)では現在、2026年度 夏の特別展「古代オリエントのたてものとまちづくり-模型で探検!-」が開催中です。会期は9月6日(日)まで。

報道内覧会にて、本展担当者で考古学者の津本英利研究員に見どころを案内していただきました。

展示風景、右奥は「ルメイラD地区6号支石墓 1/1模型」(シリア、紀元前2300年頃)、2013年製作

模型好きの考古学者が作り続けた建築模型、30点以上を一挙に紹介

人類は、雨露をしのいで日々の生活を営む住居をはじめ、神への祈りを捧げる神殿や、王の権威を示す宮殿、来世での安らかな暮らしを願う墓など、文明の発展に伴って目的に応じた多様な「たてもの」を築いてきました。

初期定住集落に見られた円形の地下式住居。「ハサンケイフ・ホユック住居 1/30復元模型」(トルコ、前9500~前9000年頃)、2014年 古代オリエント博物館製作、筑波大学考古学研究室蔵

中でも古代オリエントでは、約5000年前にメソポタミア地域(現在のイラク)に世界最古の本格的な都市とされるウルクが誕生して以来、さまざまな「たてもの」を内包しながら、人々の生活や行政、交易、防衛などを支える計画的な「まちづくり」が進められたことで知られています。

本展は、同館がこれまで製作してきた30点以上の縮尺模型・実物大模型や実物の考古資料を中心に、そうした古代オリエントにおける「たてもの」と「まちづくり」の歴史をひも解くもの。1978年の開館以来、模型そのものを主役に据えた特別展は今回が初の試みだといいます。

「本来であれば現地に足を運び、本物の遺跡を見ていただくのが一番ですが、治安情勢などの理由から訪問が難しい地域も少なくありません。そこで活躍するのが模型です。縮尺によって都市の全容を一望できるだけでなく、風化や被災で原型を留めていない遺跡であっても、模型ならば当時の姿を自在に復元できます」と、模型の意義について津本研究員はこう話します。

通常、博物館の展示模型は専門業者に製作を依頼するのが一般的です。しかし同館では、津本研究員が中心となり、博物館実習生やアルバイトの協力を得ながら自作しているというから驚きます。もともと模型製作が趣味の津本研究員が、毎年行っている遺跡の発掘調査の成果を視覚化しようと、知見をフルに生かして製作を始めたことがきっかけで、同館への就任以来、年2点ペースで新作を発表してきたとのこと。

現存する遺構を再現した実物大模型から、考古学的知見に基づく想像復元模型までバリエーション豊富ですが、いずれも自由度の高い手作りならではの工夫が随所に見られます。

「デル・エル゠メディーナ住居 1/50模型」(エジプト、前16~前11世紀)、2014年製作

たとえば、建築模型の多くには縮尺を把握しやすいように人形が置かれており、「デル・エル゠メディーナ住居」(エジプト、前16~前11世紀)の模型もそのひとつです。王家の谷で王墓建造に携わった職人たちの集団住宅を再現したものですが、そこで展開されているのは教科書的なルーティンではなく、若い男女のプロポーズの場面を女性の父親がこっそり見守る架空のイメージだといいます。

一見すると展示物とは関連性のない演出にも思えますが、そこには、堅苦しくなりがちな歴史の記録でも、古代オリエントを生きた人々の息遣いや等身大のドラマを感じて親しんでほしいという想いが込められています。

世界最古の都市ウルクや「バベルの塔」など、名だたる建築・都市を縮尺模型で一望

本展の展示室へ進むと、現代の建築や都市のルーツである「世界最古」の遺構を元にした、ロマンあふれる模型の数々が登場します。

「ギョベクリ・テペ円形遺構CおよびD 1/100復元模型」(トルコ、前9000年頃)、2017年製作

たとえば、トルコ南東部にある「ギョベクリ・テペ円形遺構」(前9000年頃)は「世界最古の神殿の跡」といわれています。文明はおろか農耕・牧畜開始以前の狩猟採集民が、高さ約6m、重さ約20tに及ぶ巨石を用いてモニュメンタルな巨大建造物を建てていたことが判明し、人類史の定説を塗り替える大発見となったことでユネスコ世界遺産に登録されました。

ただし、模型は2017年に製作されたものですが、その後の調査で二重の壁は存在せず、内側の壁を作った後に外側の壁を埋め立てていたことが判明。さらに、屋根付きであった説が有力視されていることから、模型は実のところ「修正待ち」の状態です。学説が目まぐるしくアップデートされていく様子を物語る作例として、本展ではそのまま公開しているとのこと。

メソポタミア文明を生み出したシュメール人のつくった都市国家の中で、最盛期には8~1万の人口を擁した、最古かつ最大の都市がウルクです。南メソポタミア(現在のイラク南部)では前3500年頃以降、ウルクが周囲の小集落を取り込んで統合する形で集落面積が巨大化。また、灌漑により農業生産や畜産が飛躍的に拡大し、西アジア全域に達する交易網によって木材や金属、貴石といった富を集積していきました。それに伴い、集落の中心にある神殿地区では特殊な建築物が次々に建てられるようになります。

「コーン・モザイク神殿 1/87復元模型」(南メソポタミア、前3400年頃)、2019年製作

その最初のものが前3450年頃の「白色神殿」と呼ばれる、のちのジックラト(聖塔)の原型となる建物と、「世界最古のモザイク」として知られる、円錐状の粘土を壁に埋め込んだ「コーン・モザイク神殿」です。その後数百年にわたり、ウルクの中心部では次々に巨大な神殿建築の建て替えが行われ、多様な出自を持つ住民が集まって暮らす世界最初の「都市」の統合の象徴となりました。

「現代だと都市の中心には市役所や市議会などがありますが、古代においては神殿でした。血縁関係もない他人同士が一緒に暮らすため、共通の神様をみんなで拝むことで、コミュニティとしての一体感を高めたんです」(津本研究員)

ウルクは、世界最古の文字である原楔形文字の誕生や文字による行政システムの成立など、文明の基盤となる数々の仕組みが育まれた都市です。同時に、旧約聖書にその名が刻まれ、世界最古の文学作品とされる『ギルガメシュ叙事詩』の舞台としても広く知られており歴史的な重要性のみならず、豊かな物語のロマンをも湛えています。

「ウルク市 1/4000想像復元模型」(南メソポタミア、前2700年頃)、2019年製作

『ギルガメシュ叙事詩』の主人公は、実在したウルク第1王朝のギルガメシュ王です。会場では、ギルガメシュ王が治めていた前2700年頃のウルク市街を表した模型を展示。叙事詩でギルガメシュ王が建設したと謳われる全長10kmを超える城壁のほか、中央には階段ピラミッド状のジックラトが建つ神殿地区も確認でき、神殿を中核に据えた都市計画の様子がうかがえます。人工運河は都市の生命線であり、灌漑農業だけでなく、船による物資の輸送や集積・再分配を支える重要なインフラとして機能していました。

もっとも、巨大なウルク遺跡は運河を含むごく一部しか発掘されておらず、王宮の位置などは不明のまま、模型の大部分は考古学的な知見に基づいて復元されたものだといいます。今後の発掘調査によって、この壮大な古代都市の姿がどのように更新されていくのかも楽しみなところです。

「銘文入煉瓦片」(南メソポタミア、前21世紀半ば)

ジックラトはその後、ウル、エリドゥ、ニップルなどメソポタミア全域のさまざまな都市国家へと受け継がれ、洗練されていきます。本展では、ウルのジックラトに積まれていた日干し煉瓦の実物を初展示。雨が少なく、多量の粘土が取れるメソポタミアの建築に、煉瓦は欠かせない材料でした。表面に見える文字は、ウル第三王朝時代のアマル・スエン王(在位は前2046~2038年頃)の銘です。歴代の王たちが一つ一つに名を刻んだ煉瓦は、建設者を後世に伝えると同時に、神への信仰を示す証明書のような役割を果たしていました。

「アマル・スエン王銘煉瓦」(南メソポタミア、前2046~2038年頃)

また、同じくアマル・スエン王の銘が入った焼成煉瓦は、背面に瀝青(れきせい、天然アスファルト)が付着しています。石油資源の豊富なイラクで、古代から防水や接着の目的で石油が実用化されていたことを示すもので、レンガ同士の補強に用いられた葦の編み跡もくっきりと残っています。

「ハンムラビ法典碑(複製)」(イラン、前1760年頃)

ウルクで芽吹いた都市文明は、アッカド王国によるメソポタミア統一を経て、やがて前18世紀、ハンムラビ王の治世には古バビロニア王国の首都バビロンへとその中心を移しました。

旧約聖書に登場する「バベルの塔」や、世界七不思議の一つに数えられる「空中庭園」の伝承で知られる、あまりにも有名な古代都市バビロンですが、意外にもその起源は謎に包まれています。地下水位の上昇などによって遺跡の大部分を発掘できないため、具体的に判明しているのは、ネブカドネザル2世の治世で栄華を極めた新バビロニア時代(前6世紀前半)以降の都市の姿に限られるといいます。

「バビロン市中心部1/2000想像復元模型」(メソポタミア、前6世紀前半)、2020年製作

模型では、前6世紀初頭のバビロン市中心部の北半分、鮮やかなコバルトブルーの釉薬煉瓦で飾られたイシュタル門から、天高くそびえるジックラト、バビロンの主神マルドゥクの神殿までを表現。一説によると、このジックラトは高さ91mに達したといい、「バベルの塔」の逸話は、捕囚された古代イスラエル人たちが塔の迫力に圧倒されて語り継いだのかもしれません。模型を鑑賞する際は古代人になったつもりで、イシュタル門からジックラトを望むような角度で楽しんでみるのも面白そうです。

古代エジプトのピラミッドの500年にわたる進化過程を表した模型群

このほかにも、

・歴代のファラオが約2,000年にわたって増改築を重ねた、古代エジプト最大級の神殿複合体「カルナック神殿(アメン・ラー神殿域)」

・アジア、アフリカ、ヨーロッパの3大陸にまたがる広大な領土を支配した史上初の世界帝国アケメネス朝ペルシアの都であり、のちにアレクサンドロス大王に焼き討ちされた「ペルセポリス」

・ホメロスの叙事詩『イリアス』で謳われ、巨人キクロプスが運んだという巨石でできたミケーネ文明を代表するギリシアの世界遺産「ティリンス城塞」

など、地域を問わず、古代オリエントとその周辺世界を代表する建築や都市の模型を紹介。なかには、イエス・キリストが宣教に訪れた……かもしれない、故郷ナザレの近くにあったユダヤ教徒の集会所といった、一風変わった模型もあって見飽きません。その全貌はぜひ会場でご確認ください。

「ペルセポリス アパダナ(謁見の間)の柱 1/5模型」(イラン、前5世紀)、1997年製作 / 36本の柱が立つアパダナは、古代エジプトに起源をもつ多柱式ホール。柱に施された彫刻(溝や柱頭の渦巻)には古代ギリシアのイオニア式建築の影響もみてとれ、アケメネス朝ペルシアが古代オリエントの集大成のような存在であったことを示しています。
「後期ヘラディックⅢB2期ティリンス城塞 1/250復元模型」(ギリシア、前1250~1190年頃)、2015年 古代オリエント博物館製作、天理大学付属天理参考館蔵

古代人の死生観を「センネジェム墓」の実物大模型で体感!衣装を着て記念撮影も

古代オリエント博物館が発掘を行った、ユーフラテス川沿いに暮らした有力部族の一家のための巨石墓「ルメイラD地区6号支石墓」(シリア、紀元前2300年頃)や、ハンムラビ王と同時代にあたるシリア北部の農村住居を、実際の出土品を配置しながら再現した「テル・ルメイラVI層住居」(紀元前1800年頃)など、実物大で表された模型は特に臨場感を味わえます。

「テル・ルメイラVI層住居 1/1模型」(紀元前1800年頃)、1994年製作

なかでも津本研究員が注目してほしいと話すのは、エジプト・ルクソールの西岸にあるテーベ墓地に造営された「センネジェム墓」(エジプト、紀元前1300年頃)の実物大模型です。セティ1世とラムセス2世が統治した、第19王朝時代の墓建設の親方センネジェムの地下墓であり、ドーム状の空間に鮮やかな壁画が例外的なほど美しい状態を保っていることで知られています。

「センネジェム墓 墓室 1/1模型」(エジプト、紀元前1300年頃)、2014年製作

壁面に描かれているのは、墓主であるセンネジェムが死後、アヌビス神にミイラにされ、冥界を旅しながらオシリス神の審判を受けた後、「イアルの野」という来世の理想郷で妻イイネフェルディとともに農耕に従事するといった一連のストーリー。どの部分も描写が極めて緻密で、隙間なく美しい模様で埋め尽くされている様子は圧巻です。さまざまな考古資料とともに、死を終わりではなく、新たな世界での人生の始まりと捉えた古代エジプト人の前向きな死生観を体感できます。

なお、本展は基本的に撮影自由となっており、「センネジェム墓」の前では古代エジプト人風の衣装を身にまとった記念撮影も可能です。

貸出し衣装
ミイラ作りの際、内臓を入れたカノポス壷を収納した神聖な箱。「カノボス箱断片」(エジプト、前322~後395年)

「単に見栄えのいい模型を作るのであれば、もっと上手に作れる人がいます。本展で展示している模型は、考古学者が最新の調査結果や学説を遡行的に盛り込み、常にその時点で考えられる最もリアルな古代都市や建築の情報をお伝えしています。そういった点にもご注目いただきながら、現在は失われてしまった都市や建築の姿に思いを馳せていただければ」と津本研究員。期間中は、子供向け体験講座やミステリーツアーも実施するとのことですので、今年の夏休みにはぜひ親子で足を運んでみてください。


開催概要
会場:池袋サンシャインシティ文化会館ビル7階 古代オリエント博物館
会期:2026年7月4日(土)〜9月6日(日)
開館時間:10:00~17:00(入館は16:30まで)
 ※7/24(金)と8/28(金)は20:00まで開館(最終入館19:30)
休館日:会期中無休
入館料:一般 1300円、大・高校生 1000円、中・小学生 400円
 ※20名以上の団体割引、障害者割引あり
 ※障害者手帳をお持ちの方は半額割引(付き添いの方は1名入館無料)
主催:古代オリエント博物館
ウェブページ:https://aom-tokyo.com/exhibition/260704_maquette.html


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