2022年7月16日(土)〜9月11日(日)の期間、東京・池袋にある古代オリエント博物館では、夏の特別展「大航海時代へ―マルコ・ポーロが開いた世界―」が開催されています。
先立って開催された報道内覧会に参加してきましたので、会場の様子をレポートします。
※掲載されている画像は特別な許可をいただいて撮影したものです。一般の方の撮影はできません。
『東方見聞録』をきっかけに始まった大航海時代
シルクロードを旅し、ユーラシア大陸の東西にまたがる広大なモンゴル帝国に17年滞在したマルコ・ポーロ(イタリア:1254~1324)が各地で見聞した内容を、物語作家・ルスティケロが残した旅行記『東方見聞録』。
のちに多くの写本を生み出した『東方見聞録』が描く富と黄金に満ちた東洋(中国とジパング)や、スパイスを産出する島々の存在は、コロンブスなど多くの冒険者たちが大航海時代(15~17世紀)を切り開く冒険心の原動力となりました。
本展は、『東方見聞録』成立の土台となったシルクロードの東西交流(4~12世紀)とモンゴル帝国の時代(13~14世紀)、そして世界史上はじめて人・物・文化の交流が地球規模で始まった大航海時代について紹介するもの。
奈良の天理参考館・天理図書館に所蔵されている貴重な考古資料、美術工芸品、書籍、地図、文書など約200点が展示されています。
第1章:シルクロードとマルコ・ポーロの冒険
第1章では大航海時代以前に、すでに活発に行われていたユーラシア東西の交流を示す文物を紹介しています。
たとえば、《銀装鉄短剣》と《鍍金銀装鉄短剣》は3~7世紀頃に栄えたイランの王朝であるサーサーン朝時代のもの。
サーサーン朝においては帝王や王子、または王に許された者しか着用できないものだったそうですが、その類例はカザフスタンや韓国慶州でも発掘されているとか。3路あるシルクロードのうち「草原の道」での伝播を示す、日本では天理参考館にしかないという貴重な工芸品です。
また、シルクロードを通じて西方世界からさまざまな文物が中国に伝わりましたが、その影響が顕著に表れているのが、7世紀以降の唐の時代に作られた《三彩狩猟文鳳首瓶》、《三彩龍耳瓶》といった唐三彩の水瓶。
唐三彩は多種の釉薬の彩りを効果的に使った陶器ですが、この2作品の器のフォルムは西アジアで流行した金属製の水差しを再現したものです。中国では「胡瓶(こへい)」と呼称され、当時の人々はこの形を見て、西方のエキゾチックな魅力に浸ったそう。
《三彩狩猟文鳳首瓶》に注目すると、中国の代表的な瑞鳥である鳳凰や、パルティアン・ショットと呼ばれるペルシア地域で用いられた狩猟紋様が造形されています。
また色彩の面では、中国由来の褐色や緑のほかに、西アジアからもたらされた藍色(酸化コバルト)が確認でき、中国古来の表現と、西方の美意識が見事に調和した造形美が堪能できます。
なお、唐三彩は日本では奈良三彩、イスラム圏ではペルシア三彩を誕生させるなど、外国の製陶にも大きな影響を与えたとか。会場にはそのペルシア三彩の陶器も展示されているほか、イランで作られた中国陶磁風の焼き物の姿もありました。
西から東へ、東から西への流行の伝播の様子や、東西の人々の他方への憧れの眼差しを感じられるのも本展の面白いところです。
また、マルコ・ポーロが活躍したモンゴル帝国の内情を示す資料として《成吉思皇帝聖旨牌子(パイザ)》があります。
イタリアの商人であるマルコ・ポーロがなぜヴェネチアから大都(今の中国北京)まで安全に移動でき、さらにモンゴル帝国内をあちこち旅行できたのか。それは、ユーラシア大陸をまたぐモンゴル帝国の統治により治安が確保されたことと、経済・商業を重視していたフビライ皇帝の庇護があったから。
モンゴル帝国は交通政策・通商政策を重視していて、帝国中に駅伝を設置して交通網を確保していました。この牌子は『東方見聞録』のなかでも紹介されていて、牌子を皇帝から与えられたマルコ・ポーロは駅伝の宿舎や馬などを自由に使い、効率よく移動ができたといいます。
かつては全面にメッキが施されていたようですが、今ではメッキが剥げて迷彩柄っぽくなっていました。ですがよーく見れば、「成吉思皇帝」というチンギス・ハン(成吉思汗)の中国側における呼び名の文字を確認することができますよ。
第2章:大航海時代へ
第2章はいよいよ大航海時代に突入です。
発行当時はにわかには信じがたいものとして扱われていた『東方見聞録』ですが、ルネサンス期になると人文主義者たちによって情報の重要性が認められるようになりました。
巨万の富へ人々を導くガイドブックとして、スペインやポルトガルの船乗りたちの必携書となった『東方見聞録』。原本は残っていませんが、本展では1484年頃発刊されたラテン語の『東方見聞録』(ピピノ版)や、1492年に黄金の国ジパングを目指して出航したコロンブスの手書きのメモを再現した複製本などが展示されています。
アジアやインド洋に関しては、すでに中国人やアラブ人によってある程度の地理情報が蓄積されていましたが、大航海時代以降、ヨーロッパ人のアメリカ大陸や大西洋の地理的発見によって、数十年のうちに次々に世界地図が書き換えられていきます。
当初コロンブスやマゼランらが頼りにしたのは、ルネサンス期に再発見された、2世紀頃のローマの天文学者・プトレマイオスによる『地理学』の“間違いだらけ”の古い世界地図でした。
会場では、大航海時代の始まりにあったプトレマイオスの地図をはじめとして、アメリカ大陸が独立した大陸として描かれたほぼ最初の書籍であるミュンスターの『一般宇宙誌』や、日本はあるけれど九州以外の形がふわっとしているドゥラードの『世界地図帳』など、 “当時の人々にとっての世界の姿”を鑑賞できて非常にワクワクします!
第2章の前半はかなり書籍や地図が多く、一見では地味というか難しげな印象を受けるのですが、実はここが本展の一番の見どころと言ってもいいのかもしれません。
細かな差異が面白いので、ぜひそれぞれの地図を見比べてみてください。
ドイツ・ケルンの地図製作者・フォペルの地球儀にも注目です。
製作された時代は、コロンブスと同様にアメリカ大陸をインドやジパング(日本)と信じた人が多かったそうで、この地球儀でもアメリカ大陸はなく、ツィパンガ(ジパング)が西インド諸島に浮かんでいます。
天理図書館で門外不出だった所蔵品で、今回初めて東京に運ばれたそう。かの織田信長に献上された地球儀もこれと同型のものだったとか。フォペルの地球儀としては現存最古のもので、完全な形で残っているものは世界でほぼ唯一という、こちらも大変貴重な作品です。
そのほか、ヨーロッパの商人が東南アジアで通貨の代用に使ったビーズや、アルゴンキン族(北米先住民)の言語に翻訳された聖書など、異文化との接触の様子を物語る資料も多数展示されていました。
大航海時代は日本でいうと織田信長や徳川家康が活躍した激動の戦国時代。第2章の後半では、戦国時代の人々がヨーロッパ人と接触することで相互に与えた影響を紹介しています。
大航海時代とは直接関係はないものの、「本能寺の変」で明智方として参戦した武士が残した唯一の具体的な記録として有名な『本城惣右衞門覚書』も展示されているのでお見逃しなく!
なお、本展は2020年に天理参考館で行われた企画展の巡回展となり、会場のキャパシティーの関係で出展作品を厳選し、規模を縮小して開催しています。会場で販売されている図録は天理参考館での開催時のものであり、東京会場で鑑賞できる以上の資料が図録に掲載されていますので、読めばより理解が深まるでしょう。
期間中は視覚障がいのある方のための展示解説ツアーや、「オーブン粘土でトンボ玉をつくる」ワークショップ、「シルクロードと立体地図模型のひみつ」を知ることができる親子向けの講座なども企画しているとのこと。
この夏はぜひ本展で、大航海時代の人々の興奮を追体験してみていかがでしょう。
特別展「大航海時代へ―マルコ・ポーロが開いた世界―」開催概要
会場 | 池袋サンシャインシティ文化会館ビル7F 古代オリエント博物館 |
会期 | 2022年7月16日(土)〜9月11日(日) |
開館時間 | 10:00~16:30(入館は16:00まで) ※開館時間が変更となる場合があります。詳しくは公式ページをご確認ください。 |
休館日 | 会期中無休 |
入館料 | 一般 1000円、大高生 700円、中小生300円 ※20名以上の団体割引、障害者割引あり ※「障害者手帳」をお持ちの方は半額割引(付き添いの方は1名入館無料) |
主催 | 古代オリエント博物館、天理大学附属天理参考館、天理大学附属天理図書館 |
公式ページ | https://aom-tokyo.com/exhibition/220716_daikoukai.html |
※本記事の内容は内覧会(2022/7/15)時点のものです。最新の情報は公式ページ等をご確認ください。
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