サンシャイン水族館(東京・池袋)では、2022年9月30日(金)~12月18日(日)の期間、夜間特別営業「終わりは始まり展~生き物たちの終焉~」が開催されています。
生き物たちの「死」から始まる新たな命の物語に触れられる本イベントでは、普段は展示されていない、貴重な生きたチュウゴクオオサンショウウオも特別展示されているほか、美しい「光の柱」のフォトスポットも出現!
開幕に先立って行われた報道内覧会で本イベントを体験してきましたので、会場の様子や展示内容をレポートします。
生き物たちの死とその先にフィーチャーした「終わりは始まり展 ~生き物たちの終焉~」
サンシャイン水族館の夜間特別営業といえば、2019年から2021年の3年連続でパワーアップを繰り返しながら開催され、生き物の繁殖戦略や性の神秘を18禁スレスレ(?)なアヤシイ雰囲気の中で紹介した「性いっぱい展」の好評ぶりが記憶に新しいところ。
水と緑に包まれた「天空のオアシス」として、とくに爽やかで癒しのイメージのあったサンシャイン水族館の印象を塗り替えるような異色のイベントでした。
今回の夜間イベント「終わりは始まり展」で注目しているのは「性」ではなく「生」のほうで、生き物たちの「死」と「その先」をコンセプトにしています。
同館は、目まぐるしく変わる世界情勢、混沌とした現代において、死に対して世代問わず意識を向ける機会が増えたのではないかと考えたといいます。
生物の死については「性いっぱい展」の“性”同様に触れづらい題材で、これまで表立っては紹介してこなかったそう。
しかし今回は、過酷な環境の中でも精一杯生き抜こうとし、自らの命の終焉(死)が次の命へつながっていくという「生き物の尊さ」を丁寧に紹介することで、改めて「生きること」を考えるきっかけになればと期待して、本イベントの開催に至ったとのことです。
(通常の水族館の開場時間は10:00~18:00です。また、この時間に特別展会場では「美味しくてすごい生き物展」が11月6日まで開催中)
※通常の水族館入場券や年間パスポートでは本イベントを鑑賞できません。
個としての死、種としての死…生き物たちのさまざまな死に触れる。生きたチュウゴクオオサンショウウオやラッコの剥製も特別展示!
それでは、本イベントの見どころや、通常の営業時と本イベントでは館内のどんなところが違うのかご紹介していきます。
まず、館内には本イベント限定のオリジナルBGMが流れていて、海の生き物がいる本館1階、水辺の生き物がいる本館2階、ペンギンやアシカがいる屋外のマリンガーデンでそれぞれ曲が違います。
話によると、通常営業中は明るく癒し系なBGMを流していますが、夜間営業中は死というセンシティブなテーマを扱っているので、しんみりするような曲を新規に制作して流すことにしたそう。
「死」×「しんみり」ということで、「落ち込んだ気分で水族館を出ることになるのでは……?」と不安がよぎりますが、マリンガーデンに向かうにつれて「生き物たちが希望をもって力強く生き抜くというイメージで盛り上がる曲調」(福井さん談)になっていくのでご安心ください。
館内を進んでいくと、生き物の横に本イベント用の展示解説パネルが追加で置かれていました。
水族館全体としては約550種類の生き物がいるそうですが、今回はその中からイベントテーマに沿った死や絶滅に関するエピソードをもつ生き物の一部をピックアップして紹介。
詳しい解説はパネルについたQRコードからスマホで読むことができます。
卵から成魚になるまでのマイワシの生存率は、なんと数万分の1。多くは大型魚類やクジラに食べられ、寿命を全うできる個体はほとんどいません。
ここではそんなマイワシなどの小型生物の無数の死が、ひとつの大きな生物の命を支えていることを解説していました。
せっかくなので、いくつかエピソードを紹介していきます。
こちらは、するするとカーテンがひるがえるように優雅な動きをするミズダコ。目の前に人が来ると歓迎しているのか威嚇しているのか、元気いっぱいに腕を広げて動き回っていましたが、このミズダコの死に方がなかなか切ないです。
約2週間かけて岩の隙間などに産卵するミズダコのメスは、その後数か月にわたって卵から離れず、撫で、新鮮な水を送って守り続けます。その間、ミズダコ自身は食事をしません。そして卵が孵化したのを見届けると、力尽きて死んでしまうのだとか。そんな~。
次の命をつないだところで、自らの命の終焉(死)を迎える。「終わりは始まり展」を象徴するようなエピソードです。
「ならオスは? メスに子育てを任せて悠々自適か?」と思って調べてみたら、卵の孵化を見届けるどころか、交接の後にすぐ死んでしまうそうです……。どうして……。
クラゲパノラマやクラゲトンネルなど、クラゲをメインにしたムードたっぷりの人気エリア「海月空感」の主役、ミズクラゲも本イベントでピックアップ。
ミズクラゲは成長する前、ポリプという小さいイソギンチャクのような見た目をした時期があります。
ミズクラゲになると老いたら死ぬだけですが、ポリプの時期は何度でも分裂してクローンを増やすことができ、しかもポリプとしての姿を保ちながら何年も生きることができるのだといいます。
個体としてのミズクラゲは死んでも、ポリプとして同じ遺伝子が生き続ける。ミズダコとはまったく異なる死と命のあり方ですね。
個体としての死ではなく、種としての死にまつわるエピソードも。
たとえばドラゴンのような見た目で観賞魚として人気のアジアアロワナ。乱獲により自然界では数が激減していて、「幸運を呼ぶ魚」と考えた人間のせいで反対に不幸な状況に追い込まれた生き物です。
一方で数を増やしているのは、温かな南方の海で暮らす熱帯魚のチョウチョウウオ。海流の影響で北方の海に流されることがあり、それが冬であれば本来寒さに耐えられず死んでしまいます。しかし、最近は温暖化の影響で水温が上昇した結果冬でも生き残り、生息域を広げているといいます。
「かわいい魚がいろいろな場所で見られるのはうれしいけれど、それが温暖化の影響であれば手放しで喜んでいいものか?」と環境問題を考える意味で取り上げたとか。
さらに、本イベントには水族館の飼育スタッフさんが約1か月かけて一から制作したオリジナル模型が登場しています。
タイヤの中にキラキラとカラフルな貝殻がたくさん入っていました。解説ナシに見ればちょっと退廃的でおしゃれなオブジェのようですが……?
これは漁網や船のロープなどが切れたり捨てられたりして海を漂った結果、持ち主のいないものが魚を捕えてしまう「ゴーストフィッシング」を再現したもの。
見えているのはヤドカリの貝殻。海底を歩き回るヤドカリがタイヤに入ってしまうと、タイヤ内部はネズミ返しのようなつくりになっているので出られず、そのまま死んでしまうそう。
ヤドカリは海の生き物の死骸を食べる「分解者」という役割を担った生き物です。
そのフンをバクテリアが分解し、死骸の有機物が自然に還り、それがまた新しい命の源になる。海はそうやって循環していますが、ゴーストフィッシングはその循環に大きな悪影響を及ぼす……身近な廃棄物が生態系を壊していることを伝えています。
こちらも、別の命を支えるわけでもなく、次の命へつながるわけでもない、望まれない死の形ですね。
また、普段はバックヤードで飼育されている絶滅危惧種・チュウゴクオオサンショウウオも本イベント限定で会場に姿を現しています。
ぼんやりした外見ですが、意外と機敏に動くこともあって見ていて飽きません。
特別な展示といえば、サンシャイン水族館でかつて飼育されていたロシアラッコの剥製も置かれていました。4本足で立っている姿が新鮮です。
前足で目を覆ったり、流されて仲間とはぐれないように手をつないで眠ったりと、なにかとかわいいシーンがメディアで取り上げられることの多いラッコ。しかし、実は上質な毛皮を目的に乱獲が行われ、絶滅危惧種に指定されるほど数が減少。現在国内の飼育数はわずか3個体しかいないという事実に驚きました。
近年では保護活動の成果が表れ、自然界での個体数は増加しているそうですが、増えたら増えたでラッコの食事事情は漁業へ大きな影響があり……。人との共存の難しさについて考えさせられる解説が読めました。
個としての死、種としての死。人間のせいで迎えてしまう「その先」につながらない死。
通常の水族館と変わらず、単純に生き物たちの姿を楽しめるのはもちろん、プラスアルファであまり知られていないさまざまな死の形やそれを取り巻く環境問題を知り、生きること、未来のことについて考えを巡らせるきっかけにもなる。
大人はもちろん、ぜひ子どもたちにも参加してほしいイベントだと感じました。
あなたは生き残れるか!?「命を繋げ!運命の選択」クイズは意外と難問
館内ではほかにも、飼育スタッフさんたちが考案した「命を繋げ!運命の選択~自然の中を生き延びろ!~」という全6問のクイズが出題されています。
来場者が魚になった気分で、過酷な自然界を生き抜く術をクイズ形式で楽しみながら学べるコンテンツ。もちろん、クイズは実際に生き物たちに起こりうることを題材にしています。
子どもでも答えられるレベルかと思いきや意外と難問も多く、サンシャインシティの広報の方も6問中2問しか正解できなかったと話していました。実はひっかけ問題も混ざっていたり……? 先入観を捨てて楽しんでみてください。
大型水槽・サンシャインラグーンにフォトスポット「光の柱」が出現!
エイをはじめ1500尾ほどの魚たちが泳ぐ、浅いサンゴ礁をイメージしたサンシャイン水族館で一番大型の水槽・サンシャインラグーン。
普段は南国の透き通った海を思わせる鮮やかなホワイトとブルーの照明で照らされている場所ですが、本イベント中は照明を落とし、一筋の黄色い光を差し込む演出を加えたフォトスポットに。
これは本イベントのキーワードである死=天に召されていくイメージで「光の柱」(天使のはしご)を表現したとのこと。(写真だとちょうどエイが召されかかってますね……)
ぜひ幻想的な1枚をどうぞ。
マリンガーデンもイベント限定のライトアップ!生き物たちの命のバトンを描いたサンドアートムービーが夜景に映える
屋上エリアのマリンガーデンも、普段は水族館らしく青を基調とした照明で照らされていますが、本イベント中はオレンジや黄色など、暖色系の照明で光に導かれていくイメージの演出が行われています。
マリンガーデンを奥まで進むと、サンドアート集団SILTと飼育スタッフさんたちが制作した、生き物の命のバトンがつながれていく様子を描いたサンドアートムービー「生命の灯火(いのちのともしび)~サンドアートで紡ぐ命の物語~」が放映中。1回見終わるのに5分弱ほどです。
夜景の中で流れる、尊くもときに非情である生き物たちの世界の物語。壮大なBGMの盛り上げもあり、ここまでの展示でたくさんの生き物の死を学んできた方であれば、きっとこの鑑賞体験は胸に残る記憶となるはず。
ちなみに、サンドアートムービーが置かれているのはサンシャイン水族館名物、ケープペンギンが空を飛ぶような姿が楽しめる「天空のペンギン」の水槽の下です。
撮影時はすでにペンギンは撤収していましたが、19時までであればペンギンが水槽にいるそうですので、興味のある方は入館したら真っ先にマリンガーデンへ足を運ぶのがおすすめ!
ちなみに、名物のケープペンギンも自然界で絶滅が危惧されている生き物だというから胸がキュッとなりました……。サンシャイン水族館に来たからには、ぜひその解説は忘れず読んでから帰ってほしいなと思います。
鳥インフルエンザ防疫対策のため、10月1日(土)よりマリンガーデンにある「草原のペンギン」水槽でのケープペンギンの展示を休止しております。また、「天空のペンギン」のケープペンギン、「天空パス」水槽でのモモイロペリカンはご覧いただくことはできますが、防疫対応策を施しているため、一部水槽に見づらい部分がございます。展示状況は水族館公式サイトをご確認ください。
以上、夜間特別営業「終わりは始まり展~生き物たちの終焉~」の体験レポートでした。
普段とは異なる雰囲気になった夜のサンシャイン水族館。同館を訪れるのが初めての方はもちろん、リピーターの方も、生き物たちの「死」と「その先」を知ることで、私たちはどう生き、どう次の世代につなぐのかを考える機会となりそうです。
夜間特別営業「終わりは始まり展~生き物たちの終焉~」概要
会場 | サンシャイン水族館 |
開催日程 | 9月30日(金)~12月18日(日)各日18:15~21:00 ※最終入場は終了1時間前。 |
休業日 | 11月23日(祝)、25日(金)、26日(土)、12月3日(土)、4日(日)、9日(金)、10日(土)、16日(金)、17日(土)
※休業日が変更になる場合があります。最新の情報は水族館公式HPよりご確認ください。 |
休館日 | 会期中無休 |
料金 | 大人(高校生以上) 2,400円、こども(小・中学生)1,200円、幼児(4才以上)700円
※期間中の金・土・日・祝日・祝前日は、大人料金2,600円となります。 |
イベントURL | https://sunshinecity.jp/file/aquarium/owari_hajimari/ |
※本記事の内容は内覧会(2022/9/29)時点のものです。最新の情報は公式ページ等をご確認ください。
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